た。のみならず僕より後《あと》に来た人々もいつか呼び出しに遇《あ》ったと見え、大抵《たいてい》はもういなくなっていた。僕はとうとう控室へはいり、博奕打ちらしい男にお時宜《じぎ》をした上、僕の場合を相談した。が、彼はにこりともせず、浪花節語《なにわぶしかた》りに近い声にこう云う返事をしただけだった。
「一日《いちんち》に一人《ひとり》しか会わせませんからね。お前《まえ》さんの前に誰か会っているんでしょう。」
勿論こう云う彼の言葉は僕を不安にしたのに違いなかった。僕はまた番号を呼びに来た看守に一体|従兄《いとこ》に面会することは出来るかどうか尋ねることにした。しかし看守は僕の言葉に全然返事をしなかった上、僕の顔も見ずに歩いて行ってしまった。同時にまた博奕打ちらしい男も二三人の面会人と一しょに看守のあとについて行ってしまった。僕は土間《どま》のまん中に立ち、機械的に巻煙草に火をつけたりした。が、時間の移るにつれ、だんだん無愛想《ぶあいそう》な看守に対する憎しみの深まるのを感じ出した。(僕はこの侮辱《ぶじょく》を受けた時に急に不快にならないことをいつも不思議に思っている。)
看守のもう一度
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