、催眠術の本を売っている男がある。そいつが中々|※[#「足へん+卓」、第4水準2−89−35]※[#「厂+萬」、第3水準1−14−84]風発《たくれいふうはつ》しているから、面白がって前の方へ出て聞いていると、あなたを一つかけて上げましょうと云われたので、※[#「勹<夕」、第3水準1−14−76]々《そうそう》退却した。こっちの興味に感ちがいをする人間ほど、人《ひと》迷惑なものはない。
家へ帰ったら、留守《るす》に来た手紙の中に成瀬《なるせ》のがまじっている。紐育《ニュウヨオク》は暑いから、加奈陀《カナダ》へ行《ゆ》くと書いてある。それを読んでいると久しぶりで成瀬と一しょにあげ足のとりっくらでもしたくなった。
二十九日
朝から午《ひる》少し前まで、仕事をしたら、へとへとになったから、飯を食って、水風呂《みずぶろ》へはいって、漫然《まんぜん》と四角な字ばかり並んだ古本をあけて読んでいると、赤木桁平《あかぎこうへい》が、帷子《かたびら》の上に縞絽《しまろ》の羽織か何かひっかけてやって来た。
赤木は昔から李太白《りたいはく》が贔屓《ひいき》で、将進酒《しょうしんしゅ》にはウェルトシ
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