b托氏《とし》を師と仰いだ、若干《じやくかん》の青年があつたかも知れぬ。托氏はさう云ふ南方の青年から、遙《はるか》に敬愛を表すべき手紙を受け取りはしなかつたであらうか。私《わたし》は托氏宗教小説を前に、この文章を書きながら、そんな空想を逞《たくま》しくした。托氏とは伯爵トルストイである。(一月二十八日)
「西洋の民は自由を失つた。恢復の望みは殆《ほとん》ど見えない。東洋の民はこの自由を恢復すべき使命がある。」これは次手《ついで》に孫引きにしたトルストイの書簡の一節である。(一月三十日)
印税
Jules Sandeau のいとこが Palais Royal のカツフエへ行つてゐると、出版|書肆《しよし》のシヤルパンテイエが、バルザツクと印税の相談をしてゐた。その後《のち》彼等が忘れて行つた紙を見たら、無暗《むやみ》に沢山《たくさん》の数字が書いてあつた。サンドオがバルザツクに会つた時、この数字の意味を問ひ訊《ただ》すと、それは著者が十万部売切れた場合、著者の手に渡るべき印税の額だつたと云ふ。当時バルザツクが定《き》めた印税は、オクタヴオ版三フラン半の本一冊につき、定価の
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