の神々、十方《じっぽう》の諸菩薩《しょぼさつ》、どうかこの嘘《うそ》の剥《は》げませぬように。
二
黄泉《よみ》の使、玉造《たまつくり》の小町《こまち》を背負《せお》いながら、闇穴道《あんけつどう》を歩いて来る。
小町 (金切声《かなきりごえ》を出しながら)どこへ行くのです? どこへ行くのです?
使 地獄へ行くのです。
小町 地獄へ! そんなはずはありません。現に昨日《きのう》安倍《あべ》の晴明《せいめい》も寿命《じゅみょう》は八十六と云っていました。
使 それは陰陽師《おんみょうじ》の嘘でしょう。
小町 いいえ、嘘ではありません。安倍の晴明の云うことは何でもちゃんと当るのです。あなたこそ嘘をついているのでしょう。そら、返事に困っているではありませんか?
使 (独白《どくはく》)どうもおれは正直すぎるようだ。
小町 まだ強情《ごうじょう》を張るつもりなのですか? さあ、正直に白状《はくじょう》しておしまいなさい。
使 実はあなたにはお気の毒ですが、……
小町 そんなことだろうと思っていました。「お気の毒ですが、」どうしたのです?
使 あなたは小
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