お前たちも悪戯《いたずら》をすると、人間の島へやってしまうよ。人間の島へやられた鬼はあの昔の酒顛童子のように、きっと殺されてしまうのだからね。え、人間というものかい? 人間というものは角《つの》の生《は》えない、生白《なまじろ》い顔や手足をした、何ともいわれず気味の悪いものだよ。おまけにまた人間の女と来た日には、その生白い顔や手足へ一面に鉛《なまり》の粉《こ》をなすっているのだよ。それだけならばまだ好《い》いのだがね。男でも女でも同じように、※[#「言+虚」、第4水準2−88−74]《うそ》はいうし、欲は深いし、焼餅《やきもち》は焼くし、己惚《うぬぼれ》は強いし、仲間同志殺し合うし、火はつけるし、泥棒《どろぼう》はするし、手のつけようのない毛だものなのだよ……」

        四

 桃太郎はこういう罪のない鬼に建国以来の恐ろしさを与えた。鬼は金棒《かなぼう》を忘れたなり、「人間が来たぞ」と叫びながら、亭々《ていてい》と聳《そび》えた椰子《やし》の間を右往左往《うおうざおう》に逃げ惑《まど》った。
「進め! 進め! 鬼という鬼は見つけ次第、一匹も残らず殺してしまえ!」
 桃太郎は桃
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