東洋の秋
芥川龍之介

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)地平《ちへい》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一枚|毎《ごと》に

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「均−土へん」、第3水準1−14−75]
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 おれは日比谷公園を歩いてゐた。
 空には薄雲が重なり合つて、地平《ちへい》に近い樹々《きヾ》の上だけ、僅《わづか》にほの青い色を残してゐる。そのせゐか秋の木《こ》の間《ま》の路は、まだ夕暮が来ない内に、砂も、石も、枯草も、しつとりと濡れてゐるらしい。いや、路の右左に枝をさしかはせた篠懸《すずかけ》にも、露に洗はれたやうな薄明りが、やはり黄色い葉の一枚|毎《ごと》にかすかな陰影を交《まじ》へながら、懶《ものう》げに漂《ただよ》つてゐるのである。
 おれは籐《とう》の杖を小脇にして、火の消えた葉巻を啣《くは》へながら、別に何処《どこ》へ行かうと云ふ当《あて》もなく、寂しい散歩を続けてゐた。
 そのうそ寒い路の上には、おれ以外
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