ぶら御歩きになり始めました。自分ばかり地獄からぬけ出そうとする、※[#「牛へん+建」、第3水準1−87−71]陀多の無慈悲な心が、そうしてその心相当な罰をうけて、元の地獄へ落ちてしまったのが、御釈迦様の御目から見ると、浅間しく思召されたのでございましょう。
しかし極楽の蓮池の蓮は、少しもそんな事には頓着《とんじやく》致しません。その玉のような白い花は、御釈迦様の御足《おみあし》のまわりに、ゆらゆら萼《うてな》を動かして、そのまん中にある金色の蕊《ずい》からは、何とも云えない好《よ》い匂が、絶間《たえま》なくあたりへ溢《あふ》れて居ります。極楽ももう午《ひる》に近くなったのでございましょう。
[#地から1字上げ](大正七年四月十六日)
底本:「芥川龍之介全集2」ちくま文庫、筑摩書房
1986(昭和61)年10月28日第1刷発行
1996(平成8)年7月15日第11刷発行
親本:筑摩全集類聚版芥川龍之介全集
1971(昭和46)年3月〜11月
入力:平山誠、野口英司
校正:もりみつじゅんじ
1997年11月10日公開
2004年2月5日修正
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