めた。」と笑いました。ところがふと気がつきますと、蜘蛛の糸の下の方には、数限《かずかぎり》もない罪人たちが、自分ののぼった後をつけて、まるで蟻《あり》の行列のように、やはり上へ上へ一心によじのぼって来るではございませんか。※[#「牛へん+建」、第3水準1−87−71]陀多はこれを見ると、驚いたのと恐しいのとで、しばらくはただ、莫迦《ばか》のように大きな口を開《あ》いたまま、眼ばかり動かして居りました。自分一人でさえ断《き》れそうな、この細い蜘蛛の糸が、どうしてあれだけの人数《にんず》の重みに堪える事が出来ましょう。もし万一途中で断《き》れたと致しましたら、折角ここへまでのぼって来たこの肝腎《かんじん》な自分までも、元の地獄へ逆落《さかおと》しに落ちてしまわなければなりません。そんな事があったら、大変でございます。が、そう云う中にも、罪人たちは何百となく何千となく、まっ暗な血の池の底から、うようよと這《は》い上って、細く光っている蜘蛛の糸を、一列になりながら、せっせとのぼって参ります。今の中にどうかしなければ、糸はまん中から二つに断れて、落ちてしまうのに違いありません。
そこで※[#「
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