しき》もない。そこで、介錯《かいしゃく》に立った水野の家来吉田|弥三左衛門《やそうざえもん》が、止むを得ず後《うしろ》からその首をうち落した。うち落したと云っても、喉《のど》の皮|一重《ひとえ》はのこっている。弥三左衛門は、その首を手にとって、下から検使の役人に見せた。頬骨《ほおぼね》の高い、皮膚の黄ばんだ、いたいたしい首である。眼は勿論つぶっていない。
 検使は、これを見ると、血のにおいを嗅《か》ぎながら、満足そうに、「見事」と声をかけた。

       ―――――――――――――――――――――――――

 同日、田中宇左衛門は、板倉式部の屋敷で、縛り首に処せられた。これは「修理病気に付、禁足申付候様にと屹度《きっと》、板倉佐渡守兼ねて申渡置候処、自身の計らいにて登城させ候故、かかる凶事出来《きょうじしゅったい》、七千石断絶に及び候段、言語道断の不届者《ふとどきもの》」という罪状である。
 板倉|周防守《すおうのかみ》、同式部、同佐渡守、酒井|左衛門尉《さえもんのじょう》、松平|右近将監《うこんしょうげん》等の一族縁者が、遠慮を仰せつかったのは云うまでもない。そのほか、越中守を見
前へ 次へ
全33ページ中31ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
芥川 竜之介 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング