らないが、どうやら鼻紙|嚢《ぶくろ》から鋏《はさみ》を出して、そのかき乱した鬢《びん》の毛を鋏んででもいるらしい。そこで宗賀《そうが》は、側へよって声をかけた。
「どなたでござる。」
「これは、人を殺したで、髪を切っているものでござる。」
 男は、しわがれた声で、こう答えた。
 もう疑う所はない。宗賀は、すぐに人を呼んで、この男を厠《かわや》の中から、ひきずり出した。そうして、とりあえず、それを御徒目付の手に渡した。
 御徒目付はまた、それを蘇鉄《そてつ》の間《ま》へつれて行って、大目付始め御目付衆立ち合いの上で、刃傷《にんじょう》の仔細《しさい》を問い質《ただ》した。が、男は、物々しい殿中の騒ぎを、茫然と眺めるばかりで、更に答えらしい答えをしない。偶々《たまたま》口を開けば、ただ時鳥《ほととぎす》の事を云う。そうして、そのあい間には、血に染まった手で、何度となく、鬢の毛をかきむしった。――修理は既に、発狂《はっきょう》していたのである。

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 細川越中守は、焚火の間で、息をひきとった。が、大御所《おおごしょ》吉宗《よし
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