ぢやあないか。出たらめと云ふと、人聞きが悪いがね。実は、立派《りつぱ》な想像の産物さ。
 まあ、そんなむづかしい顔をするのは、よし給へ。それよりその珈琲《コオヒイ》でものんで、一しよに出かけよう。さうして、あの電燈の下で、ベエトオフエンでも聞かう。ヘルデン・レエベンは、自動車の音に似てゐるから、好きだと云ふ男が、ジアン・クリストフの中に、出て来るぢやあないか。僕のベエトオフエンの聞き方も、あの男と同じかも知れない。事によると、人生と云ふものの観方《みかた》もね。……
[#地から1字上げ](大正五年八月十九日)



底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房
   1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行
   1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行
入力:土屋隆
校正:松永正敏
2007年6月26日作成
青空文庫作成ファイル:
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