け取って貰った方が、受け取らずに返されるよりは、素戔嗚も喜ぶだろうじゃないか。して見れば玉は取り換えた方が、反《かえ》って素戔嗚のためになるよ。素戔嗚のためになって、おまけに君が刀でも、馬でも手に入れるとなれば、もう文句はない筈だがね。」
若者の心の中には、両方に刃のついた剣《つるぎ》やら、水晶を削《けず》った勾玉やら、逞《たく》ましい月毛《つきげ》の馬やらが、はっきりと浮び上って来た。彼は誘惑を避けるように、思わず眼をつぶりながら、二三度頭を強く振った。が、眼を開けると彼の前には、依然として微笑を含んでいる、美しい相手の顔があった。
「どうだろう。それでもまだ不服かい。不服なら――まあ、何とか云うよりも、僕の所まで来てくれ給え。刀も鎧《よろい》もちょうど君に御誂《おあつら》えなのがある筈だ。厩《うまや》には馬も五六匹いる。」
相手は飽くまでも滑《なめらか》な舌を弄しながら気軽く楡《にれ》の根がたを立ち上った。若者はやはり黙念《もくねん》と、煮え切らない考えに沈んでいた。しかし相手が歩き出すと、彼もまたその後《あと》から、重そうな足を運び始めた。――
彼等の姿が草山の下に、全く隠
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