素描三題
芥川龍之介

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)お宗《そう》さん

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)又|庭鳥《にはとり》がやられたな

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]
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     一 お宗《そう》さん

 お宗《そう》さんは髪の毛の薄いためにどこへも縁《えん》づかない覚悟をしてゐた。が、髪の毛の薄いことはそれ自身お宗さんには愉快ではなかつた。お宗さんは地肌の透《す》いた頭へいろいろの毛生《けは》え薬をなすつたりした。
「どれも広告ほどのことはないんですよ。」
 かういふお宗さんも声だけは善かつた。そこで賃仕事の片手間《かたてま》に一中節《いつちうぶし》の稽古《けいこ》をし、もし上達するものとすれば師匠《ししやう》になるのも善いと思ひ出した。しかし一中節はむづかしかつた。のみならず酒癖《さけくせ》の悪い師匠は、時々お宗さんをつかまへては小言《こごと》以上の小言を言つたりした。

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