Xトの死は事実上彼の予言者的天才を妄信した人々には――彼自身の中にエリヤを見た人々には余りに我々に近いものだつた。従つて又炎の車に乗つて天上に去るよりも恐しかつた。彼等は唯その為にシヨツクを受けずにはゐなかつたのである。しかし年をとつた祭司たちはこのシヨツクに欺かれはしなかつたであらう。
「それ見たことか!」
 彼等の言葉はイエルサレムからニウヨウクや東京へも伝はつてゐる。イエルサレムを囲んだ橄欖《かんらん》の山々を最も散文的に飛び超えながら。

     21[#「21」は縦中横] 文化的なクリスト

 クリストの弟子たちに理解されなかつたのは彼の余りに文化人だつた為である。(彼の天才を別にしても。)彼等は大体は少くとも彼に奇蹟を求めてゐた。哲学の盛んだつた摩伽陀国《まかだこく》の王子はクリストよりも奇蹟を行はなかつた。それはクリストの罪よりも寧《むし》ろユダヤの罪である。彼はロオマの詩人たちにも遜《ゆづ》らない第一流のジヤアナリストだつた。同時に又彼の愛国的精神さへ抛《なげう》つて顧みない文化人だつた。(マコはクリスト伝第七章二五以下にこの事実を記してゐる。)バプテズマのヨハネは彼
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