葬儀記
芥川龍之介

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)皺《しわ》くちゃ

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「碌のつくり」、第3水準1−84−27]
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 離れで電話をかけて、皺《しわ》くちゃになったフロックの袖《そで》を気にしながら、玄関へ来ると、誰《だれ》もいない。客間をのぞいたら、奥さんが誰だか黒の紋付《もんつき》を着た人と話していた。が、そこと書斎との堺《さかい》には、さっきまで柩《ひつぎ》の後ろに立ててあった、白い屏風《びょうぶ》が立っている。どうしたのかと思って、書斎の方へ行くと、入口の所に和辻《わつじ》さんや何かが二、三人かたまっていた。中にももちろん大ぜいいる。ちょうど皆が、先生の死顔《しにがお》に、最後の別れを惜んでいる時だったのである。
 僕は、岡田《おかだ》君のあとについて、自分の番が来るのを待っていた。もう明るくなったガラス戸の外には、霜よけの藁《わら》を着た芭蕉《ばしょう》が、何本も軒近くならんでいる。書斎でお通夜《つ
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