神神の微笑
芥川龍之介

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)ある春の夕《ゆうべ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)昔|紅海《こうかい》の底に

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「靈」の「巫」に代えて「女」、第3水準1−47−53]
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 ある春の夕《ゆうべ》、Padre Organtino はたった一人、長いアビト(法衣《ほうえ》)の裾《すそ》を引きながら、南蛮寺《なんばんじ》の庭を歩いていた。
 庭には松や檜《ひのき》の間《あいだ》に、薔薇《ばら》だの、橄欖《かんらん》だの、月桂《げっけい》だの、西洋の植物が植えてあった。殊に咲き始めた薔薇の花は、木々を幽《かす》かにする夕明《ゆうあか》りの中に、薄甘い匂《におい》を漂わせていた。それはこの庭の静寂に、何か日本《にほん》とは思われない、不可思議な魅力《みりょく》を添えるようだった。
 オルガンティノは寂しそうに、砂の赤い小径《こみち》を歩きながら、ぼんやり追憶に耽っていた。
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