さようなら。パアドレ・オルガンティノ! 君は今君の仲間と、日本の海辺《うみべ》を歩きながら、金泥《きんでい》の霞に旗を挙げた、大きい南蛮船を眺めている。泥烏須《デウス》が勝つか、大日※[#「靈」の「巫」に代えて「女」、第3水準1−47−53]貴《おおひるめむち》が勝つか――それはまだ現在でも、容易《ようい》に断定《だんてい》は出来ないかも知れない。が、やがては我々の事業が、断定を与うべき問題である。君はその過去の海辺から、静かに我々を見てい給え。たとい君は同じ屏風の、犬を曳《ひ》いた甲比丹《カピタン》や、日傘をさしかけた黒ん坊の子供と、忘却の眠に沈んでいても、新たに水平へ現れた、我々の黒船《くろふね》の石火矢《いしびや》の音は、必ず古めかしい君等の夢を破る時があるに違いない。それまでは、――さようなら。パアドレ・オルガンティノ! さようなら。南蛮寺のウルガン伴天連《バテレン》!
[#地から1字上げ](大正十年十二月)
底本:「芥川龍之介全集4」ちくま文庫、筑摩書房
1987(昭和62)年1月27日第1刷発行
1993(平成5)年12月25日第6刷発行
底本の親本:「
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