まどい》をおろした壁にはいろいろのポスタアの剥《は》がれた痕《あと》。
29[#「29」は縦中横]
この劇場の裏の下部《かぶ》。少年はそこに佇《たたず》んだまま、しばらくはどちらへも行《ゆ》こうとしない。それから高い窓を見上げる。が、窓には誰も見えない。ただ逞《たくま》しいブルテリアが一匹、少年の足もとを通って行く。少年の匂《におい》を嗅《か》いで見ながら。
30[#「30」は縦中横]
同じ劇場の裏の上部。火のともった窓には踊り子が一人現れ、冷淡に目の下の往来を眺める。この姿は勿論《もちろん》逆光線のために顔などははっきりとわからない。が、いつか少年に似た、可憐《かれん》な顔を現してしまう。踊り子は静かに窓をあけ、小さい花束《はなたば》を下に投げる。
31[#「31」は縦中横]
往来に立った少年の足もと。小さい花束が一つ落ちて来る。少年の手はこれを拾う。花束は往来を離れるが早いか、いつか茨《いばら》の束に変っている。
32[#「32」は縦中横]
黒い一枚の掲示板《けいじばん》。掲示板
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