しい紳士である。少年の顔に往来する失望や当惑に満ちた表情。紳士は少年を残したまま、さっさと向うへ行ってしまう。少年は遠い雷門《かみなりもん》を後ろにぼんやり一人佇んでいる。

          9

 もう一度父親らしい後ろ姿。ただし今度は上半身《じょうはんしん》。少年はこの男に追いついて恐る恐るその顔を見上げる。彼等の向うには仁王門《におうもん》。

          10[#「10」は縦中横]

 この男の前を向いた顔。彼は、マスクに口を蔽《おお》った、人間よりも、動物に近い顔をしている。何か悪意の感ぜられる微笑《びしょう》。

          11[#「11」は縦中横]

 仲店の片側。少年はこの男を見送ったまま、途方《とほう》に暮れたように佇んでいる。父親の姿はどちらを眺めても、生憎《あいにく》目にははいらないらしい。少年はちょっと考えた後《のち》、当《あて》どもなしに歩きはじめる。いずれも洋装をした少女が二人、彼をふり返ったのも知らないように。

          12[#「12」は縦中横]

 目金《めがね》屋の店の飾り窓。近眼鏡《きんがんきょう》、遠眼鏡《えんが
前へ 次へ
全22ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
芥川 竜之介 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング