もむしろ可憐な顔をしている。彼等の後《うし》ろには雑沓した仲店。彼等はこちらへ歩いて来る。

          5

 斜めに見たある玩具屋《おもちゃや》の店。少年はこの店の前に佇《たたず》んだまま、綱を上《のぼ》ったり下《お》りたりする玩具の猿を眺めている。玩具屋の店の中には誰も見えない。少年の姿は膝の上まで。

          6

 綱を上ったり下りたりしている猿。猿は燕尾服《えんびふく》の尾を垂れた上、シルク・ハットを仰向《あおむ》けにかぶっている。この綱や猿の後ろは深い暗のあるばかり。

          7

 この玩具屋のある仲店の片側。猿を見ていた少年は急に父親のいないことに気がつき、きょろきょろあたりを見まわしはじめる。それから向うに何か見つけ、その方へ一散《いっさん》に走って行《ゆ》く。

          8

 父親らしい男の後ろ姿。ただしこれも膝の上まで。少年はこの男に追いすがり、しっかりと外套の袖を捉《とら》える。驚いてふり返った男の顔は生憎《あいにく》田舎者《いなかもの》らしい父親ではない。綺麗《きれい》に口髭《くちひげ》の手入れをした、都会人ら
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