だけぼんやりと曇ってしまう。
16[#「16」は縦中横]
飾り窓の中の鬼百合の花。ただし後ろは暗である。鬼百合の花の下に垂れている莟《つぼみ》もいつか次第に開きはじめる。
17[#「17」は縦中横]
「わたしの美しさを御覧なさい。」
「だってお前は造花じゃないか?」
18[#「18」は縦中横]
角《かど》から見た煙草屋の飾り窓。巻煙草の缶《かん》、葉巻の箱、パイプなどの並んだ中に斜めに札《ふだ》が一枚懸っている。この札に書いてあるのは、――「煙草の煙は天国の門です。」徐《おもむ》ろにパイプから立ち昇《のぼ》る煙。
19[#「19」は縦中横]
煙の満ち充ちた飾り窓の正面《しょうめん》。少年はこの右に佇《たたず》んでいる。ただしこれも膝の上まで。煙の中にはぼんやりと城が三つ浮かびはじめる。城は Three Castles の商標を立体にしたものに近い。
20[#「20」は縦中横]
それ等の城の一つ。この城の門には兵卒が一人銃を持って佇んでいる。そのまた鉄格子《てつごうし》の門の向うには棕櫚《しゅろ》が何本もそよいでいる。
21[#「21」は縦中横]
この城の門の上。そこには横にいつの間《ま》にかこう云う文句が浮かび始める。――
「この門に入るものは英雄となるべし。」
22[#「22」は縦中横]
こちらへ歩いて来る少年の姿。前の煙草屋の飾り窓は斜めに少年の後ろに立っている。少年はちょっとふり返って見た後《のち》、さっさとまた歩いて行ってしまう。
23[#「23」は縦中横]
吊《つ》り鐘《がね》だけ見える鐘楼《しゅろう》の内部。撞木《しゅもく》は誰かの手に綱を引かれ、徐《おもむ》ろに鐘を鳴らしはじめる。一度、二度、三度、――鐘楼の外は松の木ばかり。
24[#「24」は縦中横]
斜めに見た射撃屋《しゃげきや》の店。的《まと》は後ろに巻煙草の箱を積み、前に博多人形《はかたにんぎょう》を並べている。手前に並んだ空気銃の一列。人形の一つはドレッスをつけ、扇を持った西洋人の女である。少年は怯《お》ず怯《お》ずこの店にはいり、空気銃を一つとり上げて全然|無分別《むふんべつ》に的《まと》を狙《ねら》う。射撃屋の店には誰もいない。少年の姿は膝の上まで。
25[#「25」は縦中横]
西洋人の女の人形。人形は静かに扇をひろげ、すっかり顔を隠してしまう。それからこの人形に中《あた》るコルクの弾丸《たま》。人形は勿論|仰向《あおむ》けに倒れる。人形の後ろにも暗のあるばかり。
26[#「26」は縦中横]
前の射撃屋の店。少年はまた空気銃をとり上げ、今度は熱心に的《まと》を狙う。三発、四発、五発、――しかし的は一つも落ちない。少年は渋《し》ぶ渋《し》ぶ銀貨を出し、店の外へ行ってしまう。
27[#「27」は縦中横]
始めはただ薄暗い中に四角いものの見えるばかり。その中にこの四角いものは突然電燈をともしたと見え、横にこう云う字を浮かび上《あが》らせる。――上に「公園|六区《ろっく》」下に「夜警詰所《やけいつめしょ》」。上のは黒い中に白、下のは黒い中に赤である。
28[#「28」は縦中横]
劇場の裏の上部。火のともった窓が一つ見える。まっ直《すぐ》に雨樋《あまどい》をおろした壁にはいろいろのポスタアの剥《は》がれた痕《あと》。
29[#「29」は縦中横]
この劇場の裏の下部《かぶ》。少年はそこに佇《たたず》んだまま、しばらくはどちらへも行《ゆ》こうとしない。それから高い窓を見上げる。が、窓には誰も見えない。ただ逞《たくま》しいブルテリアが一匹、少年の足もとを通って行く。少年の匂《におい》を嗅《か》いで見ながら。
30[#「30」は縦中横]
同じ劇場の裏の上部。火のともった窓には踊り子が一人現れ、冷淡に目の下の往来を眺める。この姿は勿論《もちろん》逆光線のために顔などははっきりとわからない。が、いつか少年に似た、可憐《かれん》な顔を現してしまう。踊り子は静かに窓をあけ、小さい花束《はなたば》を下に投げる。
31[#「31」は縦中横]
往来に立った少年の足もと。小さい花束が一つ落ちて来る。少年の手はこれを拾う。花束は往来を離れるが早いか、いつか茨《いばら》の束に変っている。
32[#「32」は縦中横]
黒い一枚の掲示板《けいじばん》。掲示板
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