ら》をされたのだか、首がない。左には、小鬼が一体、緑面朱髪で、※[#「けものへん+爭」、第4水準2−80−40]獰《そうどう》な顔をしているが、これも生憎《あいにく》、鼻が虧《か》けている。その前の、埃のつもった床に、積重ねてあるのは、紙銭《しせん》であろう。これは、うす暗い中に、金紙や銀紙が、覚束《おぼつか》なく光っているので、知れたのである。
李は、これだけ、見定めた所で、視線を、廟の中から外へ、転じようとした。すると丁度その途端に、紙銭の積んである中から、人間が一人出て来た。実際は、前からそこに蹲《うずくま》っていたのが、その時、始めて、うす暗いのに慣れた李の眼に、見えて来たのであろう。が、彼には、まるで、それが、紙銭の中から、忽然として、姿を現したように思われた。そこで、彼は、いささか、ぎょっとしながら、恐る恐る、見るような、見ないような顔をして、そっとその人間を窺《うかが》って見た。
垢じみた道服《どうふく》を着て、鳥が巣をくいそうな頭をした、見苦しい老人である。(ははあ、乞丐《こじき》をして歩く道士だな――李はこう思った。)瘠せた膝を、両腕で抱くようにして、その膝の上へ
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