仙人
芥川龍之介

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)北支那の市《まち》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)未練|未釈《みしゃく》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「口+桑」、42−13]
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          上

 いつごろの話だか、わからない。北支那の市《まち》から市を渡って歩く野天《のてん》の見世物師に、李小二《りしょうじ》と云う男があった。鼠《ねずみ》に芝居をさせるのを商売にしている男である。鼠を入れて置く嚢《ふくろ》が一つ、衣装や仮面《めん》をしまって置く笥《はこ》が一つ、それから、舞台の役をする小さな屋台のような物が一つ――そのほかには、何も持っていない。
 天気がいいと、四つ辻の人通りの多い所に立って、まず、その屋台のような物を肩へのせる、それから、鼓板《こばん》を叩いて、人よせに、謡《うた》を唱う。物見高い街中の事だから、大人でも子供でも、それを聞いて、足を止めない者はほとんどない。さて、まわりに人の墻《
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