芥川龍之介

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)中央線《ちうあうせん》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「均のつくり」、第3水準1−14−75]《にほひ》
−−

 或冬曇りの午後、わたしは中央線《ちうあうせん》の汽車の窓に一列の山脈を眺めてゐた。山脈は勿論《もちろん》まつ白だつた。が、それは雪と言ふよりも山脈の皮膚に近い色をしてゐた。わたしはかう言ふ山脈を見ながら、ふと或小事件を思ひ出した。――

 もう四五年以前になつた、やはり或冬曇りの午後、わたしは或友だちのアトリエに、――見すぼらしい鋳《い》もののストオヴの前に彼やそのモデルと話してゐた。アトリエには彼自身の油画《あぶらゑ》の外《ほか》に何も装飾になるものはなかつた。巻煙草《まきたばこ》を啣《くは》へた断髪のモデルも、――彼女は成程《なるほど》混血児《あひのこ》じみた一種の美しさを具へてゐた。しかしどう言ふ量見か、天然自然に生えた睫毛《まつげ》を一本残らず抜きとつてゐた。……
 話は
次へ
全3ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
芥川 竜之介 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング