tを宝の盒《はこ》に入れて捧げて行つた。が、彼等は博士たちの中でも僅《わづ》かに二人か三人だつた。他の博士たちはクリストの星の現はれたことに気づかなかつた。のみならず気づいた博士たちの一人は高い台の上に佇《たたず》みながら、(彼は誰よりも年よりだつた。)きららかにかかつた星を見上げ、はるかにクリストを憐んでゐた。
「又か!」
8 へロデ
ヘロデは或大きい機械だつた。かう云ふ機械は暴力により、多少の手数を省く為にいつも我々には必要である。彼はクリストを恐れる為にベツレヘムの幼な児を皆殺しにした。勿論クリスト以外のクリスト[#「クリスト以外のクリスト」に傍点]も彼等の中にはまじつてゐたであらう。ヘロデの両手は彼等の血の為にまつ赤になつてゐたかも知れない。我々は恐らくこの両手の前に不快を感じずにはゐられないであらう。しかしそれは何世紀か前のギロテインに対する不快である。我々はヘロデを憎むことは勿論、軽蔑することも出来るものではない。いや、寧ろ彼の為に憐みを感じるばかりである。ヘロデはいつも玉座の上に憂欝な顔をまともにしたまま、橄欖《かんらん》や無花果《いちじゆく》の中にあるベ
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