B勿論、神とも異るものである。我我は時々善悪の彼岸《ひがん》に聖霊の歩いてゐるのを見るであらう。善悪の彼岸に、――しかしロムブロゾオは幸か不幸か精神病者の脳髄の上に聖霊の歩いてゐるのを発見してゐた。
4 ヨセフ
クリストの父、大工のヨセフは実はマリア自身だつた。彼のマリアほど尊まれないのはかう云ふ事実にもとづいてゐる。ヨセフはどう贔屓目《ひいきめ》に見ても、畢竟《ひつきやう》余計ものの第一人だつた。
5 エリザベツ
マリアはエリザベツの友だちだつた。バプテズマのヨハネを生んだものはこのザカリアベの妻、エリザベツである。麦の中に芥子《けし》の花の咲いたのは畢《つひ》に偶然と云ふ外はない。我々の一生を支配する力はやはりそこにも動いてゐるのである。
6 羊飼ひたち
マリアの聖霊に感じて孕《はら》んだことは羊飼ひたちを騒がせるほど、醜聞だつたことは確かである。クリストの母、美しいマリアはこの時から人間苦の途《みち》に上り出した。
7 博士たち
東の国の博士たちはクリストの星の現はれたのを見、黄金や乳香《にゆうかう》や没薬《もつやく
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