ストリントベリイの言つたやうに晩年には神秘主義者になつたりした。聖霊はこの詩人の中にマリアと吊《つ》り合《あ》ひを取つて住まつてゐる。彼の「大いなる異教徒」の名は必しも当つてゐないことはない。彼は実に人生の上には[#「人生の上には」に傍点]クリストよりも更に大きかつた。況《いはん》や他のクリストたちよりも大きかつたことは勿論である。彼の誕生を知らせる星はクリストの誕生を知らせる星よりも円《まる》まるとかがやいてゐたことであらう。しかし我々のゲエテを愛するのはマリアの子供だつた為ではない。マリアの子供たちは麦畠の中や長椅子の上にも充ち満ちてゐる。いや、兵営や工場や監獄の中にも多いことであらう。我々のゲエテを愛するのは唯聖霊の子供だつた為である。我々は我々の一生の中にいつかクリストと一しよにゐるであらう。ゲエテも亦彼の詩の中に度たびクリストの髯《ひげ》を抜いてゐる。クリストの一生は見じめだつた。が、彼の後に生まれた聖霊の子供たちの一生を象徴してゐた。(ゲエテさへも実はこの例に洩れない。)クリスト教は或は滅びるであらう。少くとも絶えず変化してゐる。けれどもクリストの一生はいつも我々を動かすで
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