ルナンはクリストの復活を見たのをマグダレナのマリアの想像力の為にした。想像力の為に、――しかし彼女の想像力に飛躍を与へたものはクリストである。彼女の子供を失つた母は度たび彼の復活を――彼の何かに生まれ変つたのを見てゐる。彼は或は大名になつたり、或は池の上の鴨になつたり、或は又|蓮華《れんげ》になつたりした。けれどもクリストはマリアの外にも死後の彼自身を示してゐる。この事実はクリストを愛した人々のどの位多かつたかを現すものであらう。彼は三日の後に復活した。が、肉体を失つた彼の世界中を動かすには更に長い年月を必要とした。その為に最も力のあつたのはクリストの天才を全身に感じたジヤアナリストのパウロである。クリストを十字架にかけた彼等は何世紀かの流れ去るのにつれ、シエクスピイアの復活を認めるやうにクリストの復活を認め出した。が、死後のクリストも流転を閲《けみ》したことは確かである。あらゆるものを支配する流行はやはりクリストも支配して行つた。クララの愛したクリストはパスカルの尊んだクリストではない。が、クリストの復活した後、犬たちの彼を偶像とすることは、――その又クリストの名のもとに横暴
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