黷スものはアメリカではないフランスだつた。

     22[#「22」は縦中横] 詩人

 クリストは一本の百合の花を「ソロモンの栄華の極みの時」よりも更に美しいと感じてゐる。(尤も彼の弟子たちの中にも彼ほど百合の花の美しさに恍惚としたものはなかつたであらう。)しかし弟子たちと話し合ふ時には会話上の礼節を破つても、野蛮なことを言ふのを憚《はばか》らなかつた。――「凡《およ》そ外より人に入るものの人を汚し能はざる事を知らざる乎《か》。そは心に入らず、腹に入りて厠《かはや》に遺《おと》す。すなはち食《くら》ふ所のもの潔《きよま》れり。」…

     23[#「23」は縦中横] ラザロ

 クリストはラザロの死を聞いた時、今までにない涙を流した。今までにない――或は今まで見せずにゐた涙を。ラザロの死から生き返つたのはかう云ふ彼の感傷主義の為である。母のマリアを顧なかつた彼はなぜラザロの姉妹たち、――マルタやマリアの前に涙を流したのであらう? この矛盾を理解するものはクリストの、――或はあらゆるクリストの天才的利已主義を理解するものである。

     24[#「24」は縦中横] カナの饗
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