轤、。彼は彼等に比べれば勿論、後代のクリストたちに比べても、決して遜色のあるジヤアナリストではない。彼のジヤアナリズムはその為に西方《さいほう》の古典と肩を並べてゐる。彼は実に古い炎に新しい薪《まき》を加へるジヤアナリストだつた。

     20[#「20」は縦中横] エホバ

 クリストの度たび説いたのは勿論天上の神である。「我々を造つたものは神ではない、神こそ我々の造つたものである。」――かう云ふ唯物主義者グウルモンの言葉は我々の心を喜ばせるであらう。それは我々の腰に垂れた鎖を截《き》りはなす言葉である。が、同時に又我々の腰に新らしい鎖を加へる言葉である。のみならずこの新らしい鎖も古い鎖よりも強いかも知れない。神は大きい雲の中から細かい神経系統の中に下り出した。しかもあらゆる名のもとにやはりそこに位してゐる。クリストは勿論目のあたりに度たびこの神を見たであらう。(神に会はなかつたクリストの悪魔に会つたことは考へられない。)彼の神も亦あらゆる神のやうに社会的色彩の強いものである。しかし兎《と》に角《かく》我我と共に生まれた「主なる神」だつたのに違ひない。クリストはこの神の為に――詩
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