、。かがやかしい天国の門を見ずにありのままのイエルサレムを眺めた時には。……
18[#「18」は縦中横] クリスト教
クリスト教はクリスト自身も実行することの出来なかつた、逆説の多い詩的宗教である。彼は彼の天才の為に人生さへ笑つて投げ棄ててしまつた。ワイルドの彼にロマン主義者の第一人を発見したのは当り前である。彼の教へた所によれば、「ソロモンの栄華の極みの時にだにその装ひ」は風に吹かれる一本の百合の花に若《し》かなかつた。彼の道は唯《ただ》詩的に、――あすの日を思ひ煩《わづら》はずに生活しろと云ふことに存してゐる。何の為に?――それは勿論ユダヤ人たちの天国へはひる為に違ひなかつた。しかしあらゆる天国も流転《るてん》せずにはゐることは出来ない。石鹸の匂のする薔薇の花に満ちたクリスト教の天国はいつか空中に消えてしまつた。が、我々はその代りに幾つかの天国を造り出してゐる。クリストは我々に天国に対する※[#「りっしんべん+淌のつくり」、第3水準1−84−54]※[#「りっしんべん+兄」、第3水準1−84−45]《しやうけい》を呼び起した第一人だつた。更に又彼の逆説は後代に無数の
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