いふ》が笑つてゐるぜ。
友だち いくら太夫が笑つてゐても、この儘《まま》にはすまされない。白状すればよし、さもなければ、――
世之助 盛りつぶすか。そいつは御免を蒙《かうむ》らう。何もそんなにむづかしい事ぢやない。唯、私の算盤《そろばん》が、君のと少しちがつてゐるだけなんだ。
友だち ははあ、すると一桁《ひとけた》狂つたと云ふ次第かい。
世之助 いいえ。
友だち ぢや――おい、どつちがぢれつたい男だつけ。
世之助 だが君も亦、つまらない事を気にしたもんだ。
友だち 気にするつて訳ぢやないが、私だつて男だらうぢやないか。何割引くか判然しない中は首を切られても、引きさがらない。
世之助 困つた男だな。それならお名残りに一つ、私の算盤のとり方を話さうか。――おい、加賀節はしばらく見合せだ。その祐善《すけよし》の絵のある扇をこつちへよこしてくれ。それから、誰か蝋燭《らふそく》の心《しん》を切つて貰ひたいな。
友だち いやに大袈裟《おほげさ》だぜ――かう静になつて見ると、何だか桜もさむいやうだ。
世之助 ぢや、始めるがね。勿論唯一例を話すだけなんだから、どうかそのつもりに願ひたい。
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