ないからね。尤《もつと》も君が愈《いよいよ》いいと云へば、私も度胸を据ゑて、承る事にするが。
世之助 何だい、一体。
友だち まあさ、君は何だと思ふ。
世之助 ぢれつたい男だな。何だつて云へば。
友だち いやさう開き直られると、反《かへ》つて云ひ出しにくいがね。つまり何さ。――この頃|西鶴《さいかく》が書いた本で見ると、君は七つの時から女を知つて……、
世之助 おい、おい、まさか意見をする気ぢやあるまいね。
友だち 大丈夫、叔父さんがまだ若すぎる。――そこで、六十歳の今日《こんにち》まで、三千七百四十二人の女に戯れ……
世之助 こいつはちと手きびしいな。
友だち まあさ、三千七百四十二人の女に戯れ、七百二十五人の少人《せうじん》を弄《もてあそ》んだと云ふ事だが、あれは君、ほんたうかい。
世之助 ほんたうだよ。ほんたうだが、精々《せいぜい》お手柔《てやはら》かに願ひたいな。
友だち それが、どうも私には少し真《ま》にうけられないんだね。いくら何だつて君、三千七百四十二人は多すぎるよ。
世之助 成程ね。
友だち いくら君を尊敬した上でもだよ。
世之助 ぢや勝手に割引して置くさ。――太夫《た
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