世之助の話
芥川龍之介

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)世之助《よのすけ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)この頃|西鶴《さいかく》が書いた

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から2字上げ](大正六年四月)
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     上

友だち 処でね、一つ承りたい事があるんだが。
世之助《よのすけ》 何だい。馬鹿に改まつて。
友だち それがさ。今日はふだんとちがつて、君が近々《きんきん》に伊豆の何とか云ふ港から船を出して、女護《によご》ヶ島《しま》へ渡らうと云ふ、その名残りの酒宴だらう。
世之助 さうさ。
友だち だから、こんな事を云ひ出すのは、何だか一座の興を殺《そ》ぐやうな気がして、太夫《たいふ》の手前も、聊《いささか》恐縮なんだがね。
世之助 そんならよせばいいぢやないか。
友だち 処が、よせないね。よせる位なら、始から云ひ出しはしない。
世之助 ぢや話すさ。
友だち それがさ、さう中々簡単には行かない訳がある。
世之助 何故?
友だち 尋《き》く方も、尋かれる方も、あんまり難有《ありがた》い事ぢや
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