十二 俊寛
平家物語《へいけものがたり》や源平盛衰記《げんぺいせいすゐき》以外に、俊寛《しゆんくわん》の新解釈を試みたものは現代に始まつた事ではない。近松門左衛門《ちかまつもんざゑもん》の俊寛の如きは、最も著名なものの一つである。
近松の俊寛の島に残るのは、俊寛自身の意志である。丹左衛門尉基康《たんのさゑもんのじやうもとやす》は、俊寛|成経《なりつね》康頼等《やすよりら》三人の赦免状《しやめんじやう》を携へてゐる。が、成経《なりつね》の妻になつた、島の女|千鳥《ちどり》だけは、舟に乗る事を許されない。正使《せいし》基康《もとやす》には許す気があつても、副使の妹尾《せのを》が許さぬのである。妻子《さいし》の死を聞いた俊寛は、千鳥を船に乗せる為に、妹尾太郎《せのをたらう》を殺してしまふ。「上使《じやうし》を斬りたる咎《とが》によつて、改めて今|鬼界《きかい》が島《しま》の流人《るにん》となれば、上《かみ》の御《お》慈悲の筋も立ち、御《お》上使の落度《おちど》いささかなし。」この英雄的な俊寛は、成経康頼等の乗船を勧《すす》めながら、従容《しようよう》と又かうも云ふのである。「
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