「後顧するなと大うそつかれ」とか、種種のポスタアをぶら下げながら、東京街頭を歩いたさうである。廃兵そのものを抹殺する事は、官憲の力にも覚束《おぼつか》ないらしい。
又官憲は今後と雖も、「○○の○○に○○の念を失はしむる」物は、発売禁止を行ふさうである。○○の念は恋愛と同様、虚偽《きよぎ》の上に立つ事の出来るものではない。虚偽とは過去の真理であり、今は通用せぬ藩札《はんさつ》の類《たぐひ》である。官憲は虚偽を強《し》ひながら、○○の念を失ふなと云ふ。それは藩札をつきつけながら、金貨に換へろと云ふのと変りはない。
無邪気なるものは官憲である。
四 毛生え薬
文芸と階級問題との関係は、頭と毛生《けは》え薬《ぐすり》との関係に似ている。もしちやんと毛が生えてゐれば、必《かならず》しも塗る事を必要としない。又もし禿《は》げ頭だつたとすれば、恐らくは塗つても利《き》かないであらう。
五 芸術至上主義
芸術至上主義の極致はフロオベルである。彼自身の言葉によれば、「神は万象《ばんしやう》の創造に現れてゐるが、しかも人間に姿を見せない。芸術家が創作に対する態度も、亦《
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