れも「家《いへ》」に生命を感じた古《いにし》へびとの面目《めんもく》を見るやうである。かう云ふ感情は我我の中にもとうの昔に死んでしまつた。我我よりも後《のち》に生れるものは是等《これら》の歌を読んだにしろ、何《なん》の感銘も受けないかも知れない。或は又鉄筋コンクリイトの借家《しやくや》住まひをするやうになつても、是等の歌は幻《まぼろし》のやうに山かげに散在する茅葺《かやぶき》屋根を思ひ出させてくれるかも知れない。
 なほ次手《ついで》に広告すれば、早川氏の「三州横山話」は柳田国男《やなぎだくにを》氏の「遠野物語《とほのものがたり》」以来、最も興味のある伝説集であらう。発行所は小石川区《こいしかはく》茗荷谷町《みやうがだにまち》五十二番地|郷土研究社《きやうどけんきうしや》、定価は僅かに七十銭である。但《ただ》し僕は早川氏も知らず、勿論広告も頼まれた訣《わけ》ではない。
 付記 なほ四五十年|前《ぜん》の東京にはかう云ふ歌もあつたさうである。「ねるぞ、ねだ、たのむぞ、たる木、梁《はり》も聴け、明けの六《む》つには起せ大《おほ》びき」

     二十七 続「とても」

 肯定《こうてい》
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