版数さへ甚だ当てにならぬものださうである。例へばゾラの晩年の小説などは二百部を一版と号してゐたらしい。しかしこれは悪習である。何も香水やオペラ・バツクのやうに輸入する必要はないに違ひない。且又メルキユルは出版した本に一一何冊目と記したこともある。メルキユルを学ぶことは困難にしろ、一版を何部と定《さだ》めた上、版数も偽《いつは》らずに広告することは当然日本の出版業組合も※[#「厂+萬」、第3水準1−14−84]行《れいかう》して然るべき企てであらう。いや、かう云ふ見易いことは賢明なる出版業組合の諸君のとうに気づいてゐる筈である。するとそれを実行しないのは「もし佳書を得んと欲せば版数の少きを選べ」と云ふ教訓を垂れてゐるのかも知れない。
二十六 家
早川孝太郎《はやかはかうたらう》氏は「三州横山話《さんしうよこやまばなし》」の巻末にまじなひの歌をいくつも揚げてゐる。
盗賊の用心に唱へる歌、――「ねるぞ、ねだ、たのむぞ、たる木、夢の間《ま》に何ごとあらば起せ、桁梁《けたはり》」
火の用心の歌、――「霜柱、氷の梁《はり》に雪の桁《けた》、雨のたる木に露の葺《ふ》き草」
いづ
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