。然《シカ》レドモ竊盗《セツタウ》ノ性《セイ》アリ。形《カタチ》虎《トラ》ニ似《ニ》テ二尺《ニシヤク》ニ足《タ》ラズ。(下略《げりやく》)」
成程《なるほど》猫は膳《ぜん》の上の刺身《さしみ》を盗んだりするのに違ひはない。が、これをしも「竊盗《せつたう》ノ性アリ」と云ふならば、犬は風俗壊乱の性あり、燕は家宅侵入の性あり、蛇は脅迫《けふはく》の性あり、蝶《てふ》は浮浪の性あり、鮫《さめ》は殺人の性ありと云つても差支《さしつか》へない道理であらう。按ずるに「言海」の著者|大槻文彦《おほつきふみひこ》先生は少くとも鳥獣|魚貝《ぎよばい》に対する誹謗《ひばう》の性を具へた老学者である。
二十五 版数
日本の版数は出たらめである。僕の聞いた風説によれば、或相当の出版業者などは内務省への献本二冊を一版に数へてゐるらしい。たとひそれは※[#「言+墟のつくり」、第4水準2−88−74]《うそ》としても、今日《こんにち》のやうに出たらめでは、五十版百版と云ふ広告を目安《めやす》に本を買つてゐる天下の読者は愚弄《ぐろう》されてゐるのも同じことである。
尤《もつと》も仏蘭西《フランス》の
前へ
次へ
全42ページ中26ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
芥川 竜之介 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング