の道を教へてゐる。
かう云ふ思想はいつの時代、どこの国にもあつたものと見える。どうやら人種の進歩などと云ふのは蛞蝓《なめくぢ》の歩みに似てゐるらしい。
十五 比喩
メタフオアとかシミリイとかに文章を作る人の苦労するのは遠い西洋のことである。我我は皆せち辛《がら》い現代の日本に育つてゐる。さう云ふことに苦労するのは勿論《もちろん》、兎《と》に角《かく》意味を正確に伝へる文章を作る余裕《よゆう》さへない。しかしふと目に止まつた西洋人の比喩《ひゆ》の美しさを愛する心だけは残つてゐる。
「ツインガレラの顔は脂粉《しふん》に荒らされてゐる。しかしその皮膚《ひふ》の下には薄氷《うすらひ》の下の水のやうに何かがまだかすかに仄《ほの》めいてゐる。」
これは Wassermann の書いた売笑婦ツインガレラの肖像である。僕の訳文は拙《つたな》いのに違ひない。けれどもむかし Guys の描《ゑが》いた、優しい売笑婦の面影《おもかげ》はありありと原文に見えるやうである。
十六 告白
「もつと己《おの》れの生活を書け、もつと大胆《だいたん》に告白しろ」とは屡《しばしば》諸君の
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