の哲学者は「蕩児《たうじ》と守銭奴《しゆせんど》とは黄白《くわうはく》に富み、予ばかり貧乏するのは不都合《ふつがふ》である! ……正義は土豚《どとん》のやうに盲目なのか? Themis(正義の女神)の明《めい》は蔽《おほ》はれてゐるのか?」と大いに憤慨を洩《も》らした後、「遮莫《さもあらばあれ》我徒は病弱を救ひ、貧窶《ひんる》を恵むことを任にしたい」と勇ましい信念を披露《ひろう》してゐる。更に又彼に先立つこと三十年余と伝へられる Colophon の 〔Phoe&nix〕 は「何びとも金持ちには友だちである。金さへあれば神神さへ必ず君を愛するであらう。が、万一貧しければ母親すら君を憎むであらう」と諷刺《ふうし》に満ちた詩を作つてゐる。最後に 〔OE&noande〕 の Diogenes は「予の所見に従へば、人類は百般の無用の事に百般の苦楚《くそ》を味《あぢは》つてゐる。……予は既《すで》に老人である。生命の太陽も沈まうとしてゐる。予は唯予の道を教へるだけである。……天下の人は悉《ことごと》く互に虚偽を移し合つてゐる。丁度《ちやうど》一群《いちぐん》の病羊《びやうやう》のやうに」と救援
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