十三 漢字と仮名と

 漢字なるものの特徴はその漢字の意味以外に漢字そのものの形にも美醜を感じさせることださうである。仮名《かな》は勿論使用上、音標文字《おんぺうもじ》の一種たるに過ぎない。しかし「か」は「加」と云ふやうに、祖先はいづれも漢字である。のみならず、いつも漢字と共に使用される関係上、自然と漢字と同じやうに仮名《かな》そのものの形にも美醜の感じを含み易い。たとへば「い」は落ち着いてゐる、「り」は如何《いか》にも鋭いなどと感ぜられるやうになり易いのである。
 これは一つの可能性である。しかし事実はどうであらう?
 僕は実は平仮名《ひらがな》には時時《ときどき》形にこだはることがある。たとへば「て」の字は出来るだけ避けたい。殊に「何何して何何」と次に続けるのは禁物《きんもつ》である。その癖「何何してゐる。」と切れる時には苦《く》にならない。「て」の字の次は「く」の字である。これも丁度《ちやうど》折れ釘のやうに、上の文章の重量をちやんと受けとめる力に乏しい。片仮名《かたかな》は平仮名に比べると、「ク」の字も「テ」の字も落ち着いてゐる。或は片仮名は平仮名よりも進歩した音
前へ 次へ
全42ページ中14ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
芥川 竜之介 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング