ろんな品物がうずたかく積んであった。前の晩、これを買う時に小野君が、口をきわめて、その効用を保証した亀《かめ》の子だわしもある。味噌漉《みそこし》の代理が勤まるというなんとか笊《ざる》もある。羊羹《ようかん》のミイラのような洗たくせっけんもある。草ぼうきもあれば杓子《しゃくし》もある。下駄《げた》もあれば庖刀《ほうとう》もある。赤いべべを着たお人形さんや、ロッペン島のあざらしのような顔をした土細工の犬やいろんなおもちゃもあったが、その中に、五、六本、ブリキの銀笛があったのは蓋《けだ》し、原君の推奨によって買ったものらしい。景品の説明は、いいかげんにしてやめるが、もう一つ書きたいのは、黄色い、能代塗《のしろぬり》の箸《はし》である。それが何百|膳《ぜん》だかこてこてある。あとで何膳ずつかに分ける段になると、その漆臭いにおいが、いつまでも手に残ったので閉口した。ちょっと嗅《か》いでも胸が悪くなる。福引の景品に、能代塗の箸は、孫子の代まで禁物だと、しみじみ悟ったのはこの時である。
 籤ができあがると、原君と依田君とが、各室をまわる労をとった。少したつと、もう大ぜい籤を持った人々がやってくる。
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