から、そのおじいさんの姉の倅の嫁の里の分家の次男の里でも、昔から世話になった主人の倅が持っている水車小屋へ、どうとかしたところが、その病院の会計の叔父の妹がどうとかしたから、見合わせてそのじいの倅の友だちの叔父の神田の猿楽町《さるがくちょう》に錠前なおしの家へどうとかしたとか、なんとか言うので、何度聞き直しても、八幡《やわた》の藪《やぶ》でも歩いているように、さっぱり要領が得られないので弱っちまった。いまだに、あの時のことを考えると、はがきへどんなことを書いたんだか、いっこう判然しない。これは原君の所へ来た、おばあさんだが、原君が「宛名《あてな》は」ときくと、平五郎さんだとかなんとか言う。「苗字《みょうじ》はなんというんです」と押返して尋ねると、苗字は知らないが平五郎さんで、平五郎さんていえば近所じゅうどこでも知ってるから、苗字なんかなくっても、とどくのに違いないと保証する。さすがの原君も、「ただ平五郎さんじゃあ、とどきますまい」って、恐縮していたが、とうとうさじを投げて、なんとか町なんとか番地平五郎殿と書いてしまった。あれでうまく、平五郎さんの家へとどいたら、いくら平五郎さんでも、よ
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