芥川龍之介

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)広子《ひろこ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)東京|行《ゆき》の急行列車

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から1字上げ](大正十四年四月)
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        一

 ある花曇りの朝だった。広子《ひろこ》は京都《きょうと》の停車場から東京|行《ゆき》の急行列車に乗った。それは結婚後二年ぶりに母親の機嫌《きげん》を伺《うかが》うためもあれば、母かたの祖父の金婚式へ顔をつらねるためもあった。しかしまだそのほかにもまんざら用のない体ではなかった。彼女はちょうどこの機会に、妹の辰子《たつこ》の恋愛問題にも解決をつけたいと思っていた。妹の希望をかなえるにしろ、あるいはまたかなえないにしろ、とにかくある解決だけはつけなければならぬと思っていた。
 この問題を広子の知ったのは四五日前に受け取った辰子の手紙を読んだ時だった。広子は年ごろの妹に恋愛問題の起ったことは格別意外にも思わなかった。予期したと言うほどではなかったにしろ、当然とは確かに思っていた。けれどもそ
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