の。――ああ、それから姉さんにわたしから手紙を上げたことね、あのことは大村にも話して置いたの。」
広子は妹の話し終った時、勿論|歯痒《はがゆ》いもの足らなさを感じた。けれども一通《ひととお》り打ち明けられて見ると、これ以上第二の問題には深入り出来ないのに違いなかった。彼女はそのためにやむを得ず第一の問題に縋《すが》りついた。
「だってあなたはあの人は大嫌《だいきら》いだって言っていたじゃないの?」
広子はいつか声の中にはいった挑戦《ちょうせん》の調子を意識していた。が、辰子はこの問にさえ笑顔《えがお》を見せたばかりだった。
「大村もわたしは大嫌いだったんですって。ジン・コクテルくらいは飲みそうな気がしたんですって。」
「そんなものを飲む人がいるの?」
「そりゃいるわ。男のように胡坐《あぐら》をかいて花を引く人もいるんですもの。」
「それがあなたがたの新時代?」
「かも知れないと思っているの。……」
辰子は姉の予想したよりも遥《はる》かに真面目《まじめ》に返事をした。と思うとたちまち微笑《びしょう》と一しょにもう一度|話頭《わとう》を引き戻した。
「それよりもわたしの問題だわね、姉
前へ
次へ
全24ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
芥川 竜之介 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング