春の夜は
芥川龍之介

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)丸《まる》の内《うち》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「均−土へん」、第3水準1−14−75]
−−

     一

 僕はコンクリイトの建物の並んだ丸《まる》の内《うち》の裏通りを歩いてゐた。すると何か※[#「均−土へん」、第3水準1−14−75]《にほひ》を感じた。何か、?――ではない。野菜サラドの※[#「均−土へん」、第3水準1−14−75]である。僕はあたりを見まはした。が、アスフアルトの往来には五味箱《ごみばこ》一つ見えなかつた。それは又如何にも春の夜らしかつた。

     二

 U――「君は夜《よる》は怖くはないかね?」
 僕――「格別怖いと思つたことはない。」
 U――「僕は怖いんだよ。何だか大きい消しゴムでも噛んでゐるやうな気がするからね。」
 これも、――このUの言葉もやはり如何にも春の夜らしかつた。

     三

 僕は支那の少女が一人《ひとり》、電車に乗る
次へ
全4ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
芥川 竜之介 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング