がめている。すると、僕といっしょにふりむいたジョオンズは、指をぴんと鳴らしながら、その異人の方を顋《あご》でしゃくって He is a beggar とかなんとか言った。
「へえ、乞食《こじき》かね」
「乞食さ。毎日、波止場をうろついているらしい。己はここへよく来るから、知っている」
 それから、彼は、日本人のフロックコオトに対する尊敬の愚《ぐ》なるゆえんを、長々と弁じたてた。僕のセンティメンタリズムは、ここでもまたいよいよ「燃焼」せざるべく、新に破壊されたわけである。
 そのうちに、久米と松岡とが、日本の文壇の状況を、活字にして、君に報ずるそうだ。僕もまた近々に、何か書くことがあるかもしれない。
[#地から2字上げ](大正五年九月)



底本:「羅生門・鼻・芋粥」角川文庫、角川書店
   1950(昭和25)年10月20日初版発行
   1985(昭和60)年11月10日改版38版発行
入力:j.utiyama
校正:かとうかおり
1999年1月12日公開
2004年3月10日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.ao
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