の詩人にして歴史家乃至伝記作者よりも力強からん乎、彼の一生は愈出でて愈悲惨なるを免れざるべし。ポオの如きはこの好例なり。(ナポレオン乃至レニンをして詩人たらしめば、不世出の小説家を生ずるは言を俟たず。)
 四 小説家的才能は前に挙げたる三条により、詩人的才能、歴史家的乃至伝記作者的才能、処世的才能の三者に帰着すべし。この三者を相剋せしめざることは前人も至難の業としたり。(至難の業とせざりしものは凡庸の才なり。)小説家たらんとするものは自動車学校を卒業せざる運転手の自動車を街頭に駆《か》るがごとし。一生の平穏無事なるを期すべからず。
 五 既に一生の平穏無事なるを期すべからずとせば、体力と金銭と単身立命(即ちボヘミアニズム)とに頼まざるべからず。但しこの両者の効ある程度も存外少なるを覚悟すべし。比較的平和なる一生を得んと欲せば[#「比較的平和なる一生を得んと欲せば」に傍点]、畢に小説家とならざるに若かず[#「畢に小説家とならざるに若かず」に傍点]。比較的平和なる一生を送れる小説家は常に彼等の伝記の細部に亘りて判然せざる小説家なるを記憶すべし。
 六 然れども若し現世にありて比較的平和なる
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