小説の読者
芥川龍之介
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)大抵《たいてい》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から1字上げ](昭和二年三月)
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僕の経験するところによれば、今の小説の読者といふものは、大抵《たいてい》はその小説の筋を読んでゐる。その次ぎには、その小説の中に描《か》かれた生活に憧憬《しようけい》を持つてゐる。これには時々不思議な気持がしないことはない。
現に僕の知つてゐる或る人などは随分《ずいぶん》経済的に苦しい暮らしをしてゐながら、富豪や華族ばかり出て来る通俗小説を愛読してゐる。のみならず、この人の生活に近い生活を書いた小説には全然興味を持つてゐない。
第三には、第二と反対に、その次ぎには読者自身の生活に近いものばかり求めてゐる。
僕はこれらを必ずしも悪いこととは思つてゐない。この三つの心持ちは、同時に僕自身の中《うち》にも存在してゐる。僕は筋の面白い小説を愛読してゐる。それから僕自身の生活に遠い生活を書いた小説も愛読しないことはない。最後に、僕自身の生活に近い小説を愛読してゐることは勿論であ
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